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EVENT REPORT

イベントレポート

髙嶋政伸 インティマシーコーディネーター 浅田智穂さんとの対談<前編>

髙嶋政伸が、自身が主催する「リーディングセッションVol.17」を、2024年6月に開催。この公演にご参加いただくインティマシーコーディネーターの浅田智穂さんとの対談が実現しました。

“インティマシーコーディネーター”とは、センシティブシーンにおいて俳優の安全を守り、監督の演出意図を最大限に実現できるようにサポートするスタッフのことで、昨年出演したNHKドラマ10「大奥 Season2」にて初めて浅田さんとご一緒しました。
また、新潮社「波」で連載中のエッセイ『おつむの良い子は長居しない』第12回では、“インティマシーコーディネーター”をテーマに、ドラマ現場でのエピソードを記事として執筆しています。

以下、対談記事の前編となります。

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『first light』
〈インティマシーコーディネーター 浅田智穂×俳優 髙嶋政伸〉

髙嶋:リーディングセッションにご参加くださいまして、本当にありがとうございます。今回は、「波」のエッセイ『インティマシーコーディネーター』も読みますが、主に、自作のホラー作品『ソロキャンプ』のコーディネートをお願いさせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。

浅田:『波』に書いてくださったエッセイが、本当にたくさんの方に読まれていて、やはりそれが初めて「男性の俳優+加害者側の立場の演者さん」からのお話っていうのが物凄い影響力だったんですね。たくさんの方から読みましたと連絡をいただいていて、今まで、インティマシーコーディネーターについて理解していたと思ってた方たちも「あ、女性だけじゃないんだ、被害者だけじゃないんだ」っていう新しい視点を書いてくださって、本当にありがとうございます。

髙嶋:そう言ってくださると、本当に嬉しいです。僕は暴行する役が多いので、
例えば、別の作品でも、前々日とかにその俳優さん(女優さん)と、たまたま軽いシーンで会ったりなんかすると、あきらかに、僕に怯えているのがわかるんですよ。
その日の夜に、大体僕は、文章…すぐに手紙書く人間なので、プロデューサーに「今日お会いしたんですが、なんか、ちょっとこう、不安な感じがします」と僕のマネージャー経由でメールを送ります。
本来だったらインティマシーコーディネーターさんという方がいらっしゃるんだけど、今回いらっしゃらないので、(女優さんは)「出来ます」っておっしゃるかもしれないけれど、お聞きしたところ、20歳だとおっしゃっていて、こっちは56歳で、周りはみんな大人じゃないですか。
どういうふうにすればちゃんとした「声」とかっていうのを聞くことが出来るのかっていうのを、僕自身は知りたいし、そういう現場にならないと僕もやりづらい、というのをプロデューサーさんに送ると同時に、その女優さんの会社の社長さんにも、そのまま送ってもらうんですよ。
髙嶋さんこんなメール書いてたらしいよ、みたいな、たまたまそれがこっちに来ちゃったって感じで、それがそちらの女優さんというか、そちら側に伝わると「あ、政伸さん、こんな風に考えていたんだ」って、それで、少しでも安心してくださると、こちらも安心できます。

浅田:そうですね、やっぱり日本の監督の中には、お芝居ではないというか、もっとリアルを求めてる方もいらっしゃいます。でもやっぱり、これはお芝居であると割り切っていただいて、そのシーンで、どれだけその役になれてそのお芝居ができるかっていうところが、本当のエンターテイメントだと思っていて、その数日前にちょっと会ったときに怯えられてるっていうと、お互いに萎縮してしまったり、不安になってしまったら、実際それは一緒にお芝居する時に影響してしまうと思うので、改善すべき点があるのでは、と思います。

髙嶋:やるこちら側としても怯えている方を、さらに怯えさせるって、ちょっと、厳しいものがあります。やっぱり、仕事は楽しくやるもんだ、と。
あと、こういう事言うのも、ちょっと、間違っていたら申し訳ないんですけど、一番最初に浅田さんとお会いした時に、なんとなく、浅田さんがご不安というか、ちょっと変な言い方ですけど、僕を前にして少し怯えてらっしゃるように感じたんですね。それを見て、これはいけない、と思ったんですよ、こちらがインティマシーコーディネーターさんを入れて欲しいって言って、ようやくお会いできた時に、なんて言うんですかね、壁じゃないですけど、 相当もしかして、普段酷い扱いじゃないですけど、これ別に、誰かを批判してる訳でもなんでもないんですけど、そういうご経験をされたんじゃないかと思ってお聞きしたら、あります、と。

浅田:はい、それはありますね。

髙嶋:結構「煙たがられた」って言うお話をその時聞いて、これはちょっといけないなと思ったんですよ、それもあって、『インティマシーコーディネーター』のエッセイも、記録として残さないといけない、と思って書きました。

浅田:そうだったんですね。すみません(笑)。でも、初めてお会いしたの時に政伸さんが感じられたことは事実だと思います。 政伸さんが仰った通り、俳優さんの中には、やっぱりインティマシーコーディネーターをそもそも良く思われてない方もいらっしゃるので、私がお願いすることやリクエストすることを受け入れていただけるという確証はどこにもないんです。ただ、政伸さんはお話ししてすぐに大丈夫だなと、思いました。

髙嶋:だから、本当になんて言うか、正しく伝えないといけない、と、あのエッセイは、体験したままを、時系列でそのまま書きました。

浅田:その本当に「正しい」っていうところはとても大切ですし、感謝します。

髙嶋:つまり、インティマシーコーディネーターさんは、そんな怖くやったら、怖がるから、その表現やめてください、とかおっしゃるわけじゃない。

浅田:じゃないです、じゃないです。

髙嶋:どうすれば、迫真の演技というものを、まぁ仕事は楽しくやるもんだってさっき言いましたけど、やっぱりやっている時もやりがいを感じながらやれて、終わった後に、お疲れ様、良いシーンになって良かったねっていう、お互いに本音で言い合えるか、つまり、一つの作品を作る仲間なわけですから、そこら辺の一体感っていうのはあると嬉しいです。もちろん、基本は、やっぱり役者は、っていうと、そういうふうに一括りにするのは僕は好きじゃないんですが、現場にいる役者は皆、ライバルですよね。もちろん共存共栄は大事ですが、積極的に相手に勝つ、という気持ちは持たないといけない、と僕は思うんです。でも、その中でやっぱり、自分らの実力を存分に出して、やり合ったことによって見えてくるものってあるし、生まれてくる絆ってあると思うんです。殺陣のシーンでも、それはあります。先日も、アクション映画をやらせて頂いたんですが、スタントマンの方との密な話し合いとか、何度も稽古やったりとか、自分で「ここはちょっと不安なんです、腰痛めちゃうかもしれない」とか言い合える関係になれる事によって、じゃあここは例えばスタントマン入れましょうとか、ここはご本人でとかって、上手くやってくださって、何かこう、いいもんできたって感じしたんですよ。それこそ、監督、プロデューサー、役者、スタントチームみんなでアイデアだして。こちらも、僕の人生での得難い経験になりました。スタントマンの方って、映画の中で、決してお顔は見えないけれど、いらっしゃらなかったら成り立たないんですよね。その時に、改めて「本当に大切なものは目に見えない」って、思いました。

浅田:自分が許容範囲以上のスタントを求められたら、そこ自体が不安になってしまって、お芝居に集中できないと思うんですね。
でも、自分ができる範囲のアクションしかしなくていい、自分が不安なところはスタントマンに任せられるってなったら、お芝居に集中して、そちらに向けられる気持ちが大きくなったら、パフォーマンスが全然違ってくると思います。

髙嶋:そうなんですよ。できるところに特化することによって、最高の芝居ができる環境が生まれる。

浅田:それでいうと私はこの間エッセイには多分書かれてなかったんですけれど、大奥のあのシーンの時に、カットかかったら政伸さん、隣の部屋とか部屋の隅に行かれて、彼女の目に入らないとこにいつも移動されてたんですよ。
現場はピリピリすることなく、和やかでしたが、それでもカットがかかったら彼女の目に入るところに居ないっていうのが、さすがだなと思いました。それこそ本当に、そのお芝居、そのカット撮影のとき以外は、近くに居てニコニコしているのではなくて「ちょっと視野から外れる」っていうところが、さすがだなと思いました。

髙嶋:まぁあと…チェック…がね、ありますでしょ。僕あれ、苦手なんですよ。自分の芝居をモニターでチェックするのって大体どっか行っちゃうんですよ(笑)

浅田:そうなんですね(笑)

髙嶋:でも、そうですね、終わった後は、あんまり近くにいてもね、俳優さんも気持ちを変えていかないといけないでしょうし、ていうのはありました。
実はあのエッセイは3倍くらいあったんですよ。それを新潮社の方と、とにかく的確に伝えないといけない、と話し合いながら、数ヶ月かけて、3分の1にまとめました。

浅田:すごいちょうどいい長さでした(笑)

髙嶋:ありがとうございます。

浅田:いえいえ、こちらこそありがとうございます。需要は増えてはいるんですが、まだまだなので。やっぱり本当に今回、その「女性」だったり、「加害される側」「被害者」が守られるって思ってたところが、(反対側もあると)一気に今回のエッセイで広まったので、より正しい形で、需要が増えるといいと思っています。
私はそれこそ、ここで2拍待ってから歩いてくださいとか、そこで止まって振り向いて涙を流してくださいっていうことが、感情とともにできる役者さんが、じゃあ性的なシーンになって、ここまでですよ、っていうことを止められないってのは分からないんですね。そこは難しくても、コントロールをする、コントロールできるのが役者さんだと私は思っているので、そこのお手伝いというか、本当にその安心できる範囲で、許容範囲の中でコントロールしながら、でもそれでもご自分のお芝居がしっかりできるようにっていうところかな、と思いますね。

髙嶋:本番は、ほぼ段取りですからね。セリフ、動き、カメラワーク、もちろん照明もその段取りに合わせてセッティングされる訳だから。ただその中で本当に、0.001ぐらい、ふっと髙嶋政伸から別の人間になれる瞬間ってあるんですね。その0.001があるから、今までやれてるようなもんなんですよ。もちろん、僕は、なんですが、その0.001は、厳密な段取りと、稽古の中でしか生まれないと思います。

浅田:0.001よりもっと多いと思いますけど(笑)、でもそういうことなんですよね、そこにどうやって気持ちを乗せて、芝居の現場を円滑に進めるようにするかっていう。
別に何か表現を止めるわけではなく、もちろん、社会的メッセージとして何か間違ったものがあれば、それをお伝えすることもあるんですけど「激しいから駄目」とかそういうことではないんですよね。
今回の朗読のお話しになりますけど、やっぱり触れない、露出もないっていう中で、逆に、読むというシンプルな表現だからこそ、演者も観客も精神的にすごく追い詰められる可能性がある。そこをちょっと気をつけていかないと本当に、役者さんもですが、お客様にも過度な精神的ショックが発生する可能性とかも出てくるなと思って。

髙嶋:ジャズクラブというタイトな場所で、今回の様なホラー作品だと、その可能性は、大いにありますね。その辺をぜひ教えてください。

  (second light に、続く)

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